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花が咲いた時に

====主要登場人物=====

★優一(ユーイチ)

優しいだけが取り柄の

どこにでも居そうな青年。

大体の事は受け入れてしまう。

あまり怒る事はないが、

納得出来ない事があると

静かに怒ってしまうタイプ。

 

☆愛(メグミ)

花を愛する。口数も多くはない。

あまり喋らない為か、基本的に小さい声だが

意外にも大きな声は通る。

過去に、ハナコと呼ばれ慣れ過ぎて、

呼ばれたくないと思っている。

☆透子(トーコ)

ユーイチの元カノジョ。

思ったことをすぐに口に出してしまう。

ユーイチともケンカ別れをしている。

声がメグミと少し似ている。

メグミの元クラスメートで、

最も”ハナコ”と呼んでからかっていた。

 

==============


 

○一日目○

(優一)

僕はきっと“優しいだけ”の人で。

刺激という刺激はきっと

与えられないだろう。

単純に。

傷付けるのが。

傷付いてる人を見るのが

耐えられない。

だから。

何も波風の立たない

そんな生き方をしてきた。

今日も

そんな一日にするつもりだった。

 

(愛M)

私はきっと誰も“愛せ無い”人。

花一つ一つに名前をつけて。

花ばかりを愛でてしまう。

『ハナコは本当に花が好きなんだねー。』

クラスメートに、よくそんな事を言われて。

私の名前は、ハナコでは無い。

周りからは、自然にそんなあだ名をつけられ。

気に入っているわけでもない。

だけど、何も気にしていない。

今日も変わらずそんな一日になるはずだから。

 

(優一)

本当に気紛れだった。

ただ、なんとなく。

花に話しかけている女性を見かけて。

声をかけてみた。

 

優一    

「綺麗なお花ですね。」

 

愛    

「ぇ・・・。」

 

優一 

「すみません、突然。びっくりしますよね。(笑)」

愛    

「(コクリ)・・・。」

 

優一     

「何、話していたんですか?」

 

愛    

「・・・くて。」

 

優一    

「え?なんですか?」

 

愛    

(唐突な大きな声で)

「ユーイチが元気が無くて!!」

優一     

「わっ・・・!

びっくりしたぁ・・・。

そんな大きな声、出せるんですね。」

「・・・ごめんなさい。」

優一    

「それに、僕の名前を呼びましたけど、その花、ユーイチって言うんですか?」

 

愛    

「・・・はい。ユーイチって名付けました。

・・・同じ名前なんですか?」

 

優一     

「はい。優しいに漢数字の一。

一番優しくなりますように。安直ですよ。」

 

愛    

「・・・そうなんですか。」

 

優一     

「そうなんです。

それで、元気がなさそうなんですか?

そのユーイチ・・・クン?は。」

 

愛    

「はい。冬の時期って言うのもありますが。

日が足りないみたいで。」

 

優一    

「なるほど・・・。」

 

愛    

「・・・はい。」

 

優一    

「・・・。」

 

(優一)

会話が途切れてしまった。

この時は、何が起こるでもなく。

僕自身としても、

波風の立たない日々の1ページでしかなかった。

 

(愛)

私は誰に対しても

”こういう感じ”になってしまう。

笑顔を見せるのも、花の前。

怒りの表情を見せるのも、花に関連して。

哀しいと思うのも、花に対して。

楽しいと感じるのも、花の事だけ。

人に興味を示す事が出来なかった。

 

○二日目○

 

愛    

「ユーイチ、ちょっと元気でたかなー?いい子だねぇ!」

 

優一    

「こんにちは。」

 

愛    

「・・・こんにちは。」

 

優一    

「あらら・・・。

さっきまでの笑顔が・・・。」

 

愛    

「ごめんなさい。

あまり人と話すのに慣れてなくて。」

 

優一    

「そうなんですか?せっかくいい声なのに。

勿体無い。」

 

愛    

「・・・え?」

 

優一    

「ちょっぴり、

知り合いの声に似てるんですけど。

いい声ですよ。」

愛    

「ありがとう、ございます・・・?」

 

優一    

「いえいえ。

そう言えば。

僕は優一って明かしましたが。

お名前、伺っても?」

 

愛    

「・・・なんだと、思いますか?」

 

優一    

「お、なんと??

そんな切り返しが・・・?

んー、安直だけど。

ハナコさん、とか?」

 

愛    

「やっぱり、そうですよね。」

 

優一    

「・・・ん?違いましたか?」

 

愛    

「ハナコで良いですよ。

なんでもいいんです。」

 

優一    

「なんでもは良くない気も・・・。

本当はなんて言うんですか?」

 

愛    

「ハナコで良いんじゃないですか。

放っておいてください。」

 

優一    

「お、そんな事言われると、気になっちゃう・・・」

 

愛    

「放っておいて!

く!だ!さ!い!!」(大声)

優一    

「え・・・あ・・・。

ごめん、なさい。」

気分を害してしまいました、ね。

失礼します。」

 

愛    

「・・・ぁ。」

 

(愛)

柄にも無くあんな風に

突っ返してしまった。

でも、良いか。

他の人たちのように、

また、私を避けるだろうから。

今日もまた、花と過ごす。

 

○三日目○

 

優一    

「こんにちは。」

 

愛    

「・・・こんにちは。」

 

優一    

「昨日は、ごめんなさい。」

 

愛    

「・・・え?」

 

優一    

「失礼な事を言ってしまったようで。」

 

愛    

「気にしないでください。いつものことなので。」

 

優一    

「もう、話しかけない方がいいのかなって

思ってたんですけど。

でも、ユーイチクン?とも

仲良くしてみたいな。って。」

 

愛    

「なんで、ですか?」

 

優一    

「なんとなく。です。

同じ名前だし?」

 

愛    

「・・・そうですか。」

 

優一    

「そうなんです。」

 

愛    

「・・・変な人ですね。」

 

優一    

「そうですね!

って、えええ?

そうですか???」

 

愛    

「・・・はい。変な人です。」

 

優一    

「がっくりだぁ・・・。

初めて言われたよ・・・。」

愛    

「ユーイチの事は、私が良く見てるので、

譲りません。」

 

優一    

「そんなぁ・・・。

僕も優一ですけど?」

 

愛    

「あなたの事じゃないです。

こっちの、花の方です。」

 

優一    

「がっくり・・・。」

 

愛    

「・・・代わりに。

隣の花、まだ名前を悩んでいて。

よかったら、考えてみませんか?」

 

優一    

「がっくり・・・。

・・・え?!

いいんですか?!」

 

愛    

「なんだか、忙しい人ですね。」

 

優一    

「確かに・・・?

ちょっと、頭冷やさないと。」

 

愛    

「そうですね。」

 

優一    

「・・・ふぅ・・・。

・・・よっし!

で、名前、ですか?」

 

愛    

「そうですね、可愛らしいお花なので。

可愛らしい名前が良いかな、と。」

 

優一    

「んーーー・・・・。」

 

愛    

「・・・。」

 

優一    

「んーーーーーー・・・。」

 

愛    

「・・・。」

 

優一    

「メグミ。」

 

愛    

「・・・ぇ?」

 

優一    

「愛しい、とか。愛とかって書いてメグミ。

どうですか?!」

 

愛    

「・・・なんで?」(小声)

 

優一    

「え?どうしました?!」

 

愛    

「なんでも、ないです。

良いんじゃないですか?」

 

優一    

「我ながらですが!

素晴らしいネーミングセンスだと思いました!

えっへん!」

 

愛    

「・・・。

今日は、帰ります。

失礼します。」

 

優一

「え、ちょっと・・・?!

え・・・?」

 

(優一)

なんだろう?また、やっちゃった?

通称:ハナコさん(呼んだら怒っちゃうけど)を

怒らせてしまったのかな・・・?

それに、なんでこんなに気になるんだろう。

困った。

 

(愛)

なんだろう、あの男の人。

私に対しては、ハナコって答えておいて。

花の名前は私の名前を言い当てるとか。

なんなの、あの男の人。

失礼。

・・・もう!なんなの!あの男!

当てるなら、私に対して当ててよ。

 

○四日目○

 

優一    「・・・あれ?」

 

(優一)

ハナコさん、来てないな・・・。

怒らせてしまったからかなぁ・・・?

それから三日間通い続けたが、一向に現れなかった。

ハナコさん(仮)に、謝りたかったのに。

明日、居なかったら諦めよう。

それまでは、ユーイチとメグミに話しかける、変な男の人で居る。

 

○八日目○

 

優一    

「あ!!!居た!!」

 

愛    

「・・・あ。どうも。」

 

優一    

「ふぅ・・・嫌われたかと思いましたよ!」

 

愛    

「・・・え?」

 

優一    

「四日間、ずっとここに通って、

ユーイチとメグミに

一人で話しかけていたんですから!」

 

愛    

「・・・そうなんですか。」

 

優一    

「そうなんです!

・・・あと。ごめんなさい。」

愛    

「・・・何が、ですか?」

 

優一    

「いやぁ・・・

何かいつも怒らせてしまってるなって。」

 

愛    

「そんな事は無いですよ。

少し面倒だとは思ってますけど。」

 

優一    

「良かったぁ・・・!

って、面倒、ですか?!」

 

愛    

「はい。」(微笑み)

 

優一    

「そんなぁ・・・。

って、笑えるんですね。」

 

愛    

「・・・はい?」

 

優一    

「ユーイチ、花のね?僕じゃなく。の前だと、

いつも笑ってるけど。

僕に対して笑っているのは初めてだな。って。」

 

愛    

「・・・そうかもしれないですね。」

 

優一    

「ちょっぴり嬉しいです。」

 

愛    

「何がですか?」

 

優一    

「笑顔が見れて?」

 

愛    

「・・・本当、変な人ですね。」

 

優一    

「ええ、変な人なんです。」

 

愛 

「・・・はぁ。認めちゃった・・・。」

 

優一

「・・・(ニコニコ)。」

 

愛 

「・・・なんですか?」

 

優一

「笑顔、綺麗だったな、って。」

 

愛 

「・・・もう、来ないでください(小声)」

 

優一

「嫌です!」

 

愛 

「聞こえてたんですか?!」

 

優一

「なんとなくです!」

 

愛 

「・・・はぁ・・・。

変な人、ですね。もう。」

 

優一

「はい。

ここ四日間、”花に話しかける変な男”って。

言われ続けたので、慣れました!」

 

愛 

「・・・もう、なんでもいいです。」

 

優一

「はいっ!」

「・・・。」

 

(愛)

なんなんだろう、この人。

あれから、ハナコとは呼んでこないけど。

馴れ馴れしい。

ズケズケと入り込んでくる。

ペースが乱される。

ちょっと、イヤ。

 

(優一)

ちょっとずつだけど。

話してくれるようになった。

初めて、笑顔が見れた。

はっきり言って、

めちゃくちゃ美人だった。

笑顔の素敵な人って、

やっぱり良いよなぁ・・・。

また、通っちゃうじゃないか。

○九日目○

 

優一    

「来ちゃいました。」

 

愛    

「どうも。」

 

優一

「そう言えば!

昨日、聞こうと思っていたんですけど。」

 

愛 

「なんですか?」

 

優一

「四日間、いらっしゃらなかったのって、

何があったのかな。って」

 

愛 

「いきなりですね。」

 

優一

「気になっていたんですが。

昨日はなんとなく聞き出しにくくて。」

 

愛 

「・・・ここだけじゃ、無いんですよ。」

 

優一

「というと?」

 

愛 

「ユーイチや・・・メグミ以外にも、

会いに行ってるんです。」

 

優一

「あー!なるほど!

ここ以外にも、いらっしゃるわけですね。」

 

愛 

「そうなんです。」

 

優一    

「次は、どこに行くんですか?」

 

愛    
「・・・え?」

 

優一

「僕も、会ってみたいなって。」

 

愛 

「別に、面白く無いですよ?」

 

優一

「面白くなかったら。

僕は。

何度もここに来ないですよ?」

 

愛 

「・・・本当に、変な人ですね。」

 

優一

「はい。変な人なんです。」

 

愛 

「明日は、○丁目12番地の空き地です。」

 

優一

「なるほど、そこに行けば良いんですね?」

 

愛 

「はい。ただ、雨天の場合は行きません。」

 

優一

「大丈夫です!明日は、晴れます!」

 

愛 

「そうなんですか??」

 

優一

「気象予報の資格を勉強してましてね!

明日はそんな予報です!」

 

愛 

「そうなんですか?!」

 

優一

「え・・・?あ、はい!」

(え、やばい。嘘って言えないぞ、これ。)」

愛 

「嘘、なんですか?」

 

優一

「え?!ナゼバレタンデスカ?!」

 

愛 

「勘です。嘘、下手なんですね。

あははははっ!」

 

優一

「そんな笑わなくても?!」

 

愛 

「嘘つきは、キライです。」

 

優一

「ごめんなさい。もうしません。」

 

愛 

「じゃ、また、明日。」

 

優一

「はい!!また!!」

 

(優一)

その翌日も。その次の日も。

あまり多くは語らないけれど。

のどかで柔らかい。

冬だけど、温かい日々が流れていった。

 

(愛M)

何回も、何回も、何回も。

何回来るんだろう。この人は。

その度に。

知らなかった感情が出てきてしまう。

それを楽しみにしてしまっている。

そんな自分に驚いた。

雨の日は、花に会えなくて寂しいって。

そう思っていたけど。

人に会えなくて寂しいなんて。

そんあ事を思う自分が不思議だった。

・・・本当に、変な人だ。

 

○91日目○

 

優一

「こんにちは。」

 

愛 

「こんにちは。」

 

優一

「ユーイチとメグミじゃなくなっちゃって、

ちょっと寂しいです。」

 

愛    

「・・・そうですね。花だから、仕方ないんです。」

 

優一

「・・・そうですね。

どんな名前か、決めてますか?」

 

愛 

「まだです。

新しく咲いてからいつも決めてるので。」

 

優一

「そうですか。楽しみだなぁ。」

 

透子

「優一??わぁ、久しぶりぃ!」

 

優一 

「え?あぁ・・・トーコ。

久しぶり。」

 

透子

「元気ー?って、あら。

お取り込み中?」

 

愛 

「・・・(ぺこり)」

 

透子

「・・・?

アンタ、ハナコじゃない?」

 

愛 

「・・・え?」

 

透子

「まぁ、覚えてないよね。

人に興味が無くって。

花にしか興味無しのアンタだし。」

 

愛 

「・・・ごめんなさい。」

 

透子

「別に謝らなくていいよ。

で、何?付き合ってるの?

アンタら。」

 

優一

「そういうわけでは・・・」

 

透子

「こーゆー、地味ーなのがタイプなの?

優一?」

 

優一

「地味って・・・。

落ち着いてて、素敵な人だよ。」

 

透子

「なに?アタシがウルサイって話??」

 

優一

「そんな事、言ってないだろ。」

 

透子

「・・・はいはい。

ところでさ、ハナコ?」

 

愛 

「ハナコじゃないです・・・」

 

透子

「はぁ?ハナコでしょ?アンタなんか。」

 

愛 

「ハナコじゃ・・・」

 

優一

「メグミさんだ!!」

 

愛 

「・・・え?」

 

透子

「・・・は?

なんで優一がムキになるの?」

 

優一

「メグミさんが、今までどれだけ苦しんでたか!

知らないだろう?!」

 

透子

「知るわけないじゃん」

 

優一

「・・・帰ってくれ」

 

透子

「・・・はいはい。お幸せに?

・・・腹立つ・・・」

「あの・・・?」

優一

「ごめんなさい。

みっともない所を・・・。」

愛 

「名前・・・。

教えてない・・・。」

優一

「確かに、直接は聞いてないです。

けど、メグミさん、なんですよね?。」

「そう、です。」

優一

「僕も言われましたけど、メグミさん?」​

「なんですか?」

優一

「嘘、下手ですね。」

「・・・はい??」

 

優一

「花のメグミに、”メグミ”って。

僕が呼ぶ度に、反応してたじゃないですか?」

「え・・・嘘・・・?!」

優一

「だから、確証は無かったけど。

当たってて良かったです。」

 

愛 

「・・・はい。

あと、さっきは、ありがとうございました。」

優一

「ああ・・・。気にしないで下さい。

元カノが、ごめんなさい。」

愛 

「元・・・カノ・・・?」

 

優一

「はい。いつも喧嘩ばかりしてました。

あと、少しだけ・・・。

(メグミさんと透子の声が似てるんだよ。言えないけど)」

 

愛    

「・・・?」

優一    

「いえ。なんでもないです。」

愛    

「ところで・・・。」

優一

「はい?」

愛 

「お名前で、呼んでも、良いですか?」

 

優一    

「もちろんです。」

 

(100日目)

 

優一    

「メグミさん?」

 

愛 

「なんですか?」

 

優一 

「新しい花、咲いてきましたね。

名前、決めました?」

 

愛     

「まだ・・・ですかね。

ユーイチさんは?」

 

優一 

「アラタ。かな。」

 

愛     

「素敵ですね。

なら、私は・・・ノゾミ。」

 

優一 

「素敵ですね!

あと・・・。メグミさん。」

 

愛     

「なんですか?」

 

優一 

「アナタが、好きです。

僕と付き合って下さい。」

 

愛     

「・・・え?」

 

優一 

「取り柄なんて・・・

そんなに無いと思いますが・・・」

 

愛     

「それに、変な人ですしね?」

 

優一     

「うっ・・・」

 

愛     

「それに!

人の名前を勝手に想像する人ですし?」

 

優一 

「え、でも・・・」

 

愛     

「それと。雨の日は行かないって。

そう言っておいたのに。

・・・来るし」

 

優一 

「なんで知って・・・?!

え、メグミさん、来てたの?」

 

愛  

「・・・行ってないです。」

 

優一    

「じー・・・」

愛     

「優一さんに会えるとか、別に思ってなかったです」

 

優一     

「・・・ぷっ」

 

愛     

「なんですか?!」

 

優一 

「カワイイ」

 

愛     

「・・・からかってますか?」

 

優一 

「メグミさんだって。

はぐらかしてるじゃないですか!」

 

愛     

「・・・うぅ・・・」

 

優一 

「無理にとは言いませんが・・・」

 

愛     

「・・・・ます。」

 

優一 

「え?」

 

愛  

「よろしく、お願いします。」

 

優一 

「・・・はい。喜んで。」

 

愛     

「私も、好きです。優一さん。」

 

優一 

「僕もです。愛さん。」

 

 

——

 

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