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翼無き天の使い

【プロローグ】

 別に”天の使い”に憧れは無かった。

 数年に一度の春の終わり。

 ”天界の住人”が現れる。

 ”天の使い”に適正のある者が

 選別される。

 ただし、同じ集落からは選ばれない。

 

 それを『天からの贈物』と呼んでいる。

 誰しもが選ばれたものを羨(うらや)むのだ。

 ”天の使い”。

 その集落へもたらされる”天の加護”。

 その集落や、国までもが、

 魔の者や物に襲(おそ)われる恐れが

 格段に減るからだ。

 

 ”僕”は。

 村の中でも誰よりも勉強をした。

 誰よりも働いた。

 誰よりも魔法を使いこなした。

 誰よりも人に優しくしてきた。

 もちろん、全て勝てるわけでは無かった。

 腕力や、学問、魔法の種類などで、だ。

 何をするにしても、優秀ではあった。

 そして、村一番の、国一番の自慢だ、と、

 村の皆に言われていた。

 次の”天の贈物”は、

 必ず”僕”の元に来る。

 そう言われていた。

ーーーそして、その日はやってきた。

 

 昼間に現れるのが通例で、必ず、昼夜がやってくる。

 昼間なのにも関わらず、夜が突然やってくるのだ。

 それが合図であった。

 ”天界の住人”が、天から現れた。

 そこに階段が存在するかのように、静かに降ってくる。

 ”天界の住人”から発せられる光の筋の先。

 そこに居る者こそが、『天からの贈物』に選ばれし者だ。

 

ーーー僕は、選ばれた。

 

天界の住人

「そなたが選ばれし物だ。天の矢を授ける。受け取るが良い。」

「ありがたく。」

 粛々と、筒の中から矢を抜き取った。

 この後に起きる事。

 それは、矢の色の変化だ。

 その色によって、

 どんな”天の使い”か判別される。

 そして…

 

天界の住人

「なんと!虹色とはな!

 そなたは、使いの中でも、

 最高位の使いとなるであろう!!

 我をも超えるやもな?!」

 

 虹色は最も珍しい色である。

 有能な天の使いに例外なくなっている色の矢。

 最も誇らしい色だった、のだが…。

 

天界の住人

「・・・バカな・・・!」

 

ーーー矢の色が、灰色へと変化した。

 

天界の住人

「不吉な!!なんという事だ!!!

 灰だと?!こんな矢は

 見た事も聞いた事もない!!

 あり得ぬ!!そちは!!!

 ”災をもたらす、魔の者”だ!!!

 それに、そちは、翼も生えぬとは!!」

 

 矢の色の変化の後。

 本来は、”鮮やかな翼”が生えるのだ。

 美しき、飛行能力。

 そして、最高位の癒しの能力が宿る。

 ハズだった。 

ーーーそれが、僕には現れなかったのだ。

 

天界の住人

「そちは、天に選ばれし者ではない!

 何という事だ・・・!

 急ぎ天界へ戻らねば・・・!」

 

 そう言い残し、天界の住人は静かに消えた。

 直後、村人たちの戸惑いの声。

 そして、次第に、

 怨嗟(えんさ)の声へと変化した。

 

村人A

「出ていけ!!!」

村人B

「そうだそうだ!!!」

村人C

「この村を滅ぼす気なのか!」

「…ちがっ…」

 

村人たち

「早く出て行け!!」

 矢を抜いた後には。

 誰もの言葉が。

 選ばれた僕への恨みだった。

 

 全力で駆け出した。

 どこに行けばいいかもわからず。

 夢中で飛び出した。

 

 初めて辿り着いた、山の麓(ふもと)。

 一体どこなのか。わからない。

 僕は…。

 

「何故、僕には翼が無い・・・?!

 僕はどうすればいいんだっ・・・!」

​    (続く)

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